いえさき先生のコラム
ワイヤー矯正治療の歴史と最新の治療インビザライン
目次
私の師、広島大学名誉教授の丹根一夫先生から教えていただいたことですが、
20世紀の初頭にAngleにより考案されたエッジワイズ法は、いわゆるワイヤー矯正治療として現在でも主たる矯正歯科治療法として多く用いられています。また、患者の希望を叶えながらエッジワイズ法による治療をを効率よく行うために、材料学的な技術革新が恒になされ現在に至っています。
一方、まったく新しい概念として、ブラケットやワーヤーを用いない新たな治療法が開発され、臨床へ応用されてきました。少し古いものとしてダイナミックポジショナーが挙げられますが、これの進化したものがマウスピースを用いて行う各種アライナーを用いた治療法です。
このような治療が出来るようになったのは、いわゆるIT技術に賜物コンピュータによる各種データのディジタル化でありましょう。セファロレントゲンや石膏模型データのディジタル化がその一例であります。
マウスピース矯正の第一人者 昭和大学 槇教授いわく すべての患者さんがマウスピース矯正で治るというドクターは、信用できない。
さて一般の方というのは、矯正に対してどのようなイメージを持っているものなのでしょうか?
Tpジャパンのアンケートからその傾向を知ることができます。
先日一般の方々にそうしたお話を伺う機会があり、アンケートを実施しました。
対象:20~40代を中心とした約50名の方に『矯正に対するイメージ』について回答を依頼した。
1.最も多かったご意見は、まず「治療費が高い」ということ。これが約半数を占めていました。
2.次いでみられたのが「治療期間が長い」ということ、「痛い、怖い」といった不安感に関することで、この2つが同数で票を分ける結果となりました。
実質的にはこの2つが注目すべきイメージですが、どちらもマイナス要素の強い意見ですが、逆に見ればここがアプローチポイントであると考えることもできるのではないでしょうか?この2点が攻略できれば、多くの患者予備軍の方が治療に踏み出す可能性があると思われます。
3.自身の歯並びについて、約7割の方が悪いという認識があり、その半数の方が矯正をしたいという気持ちを持っているとの回答でした。
結論として、「期間が長い」「痛い、怖い」といった理由から矯正治療を見送っている方が多く、これらの問題が解決されると「矯正してみたい」方が3分の2近くおられるということが明らかになりました。
このことから、我々歯科医あるいは矯正歯科医は、効率的に治療ができ、かつ治療費が高くない治療装置や治療法を考案し、臨床応用する必要がある、と思われます。
世界の歯列矯正事情
アジア太平洋地域のほとんどの国では、軟組織側貌が前突型あるいは両顎突出を示すため、ヨーロッパや米国と比べて非抜歯治療の割合は比較的に低い。しかしながら、バングラデシュ、ニュージーランド、ネパール、パキスタンでは、軟組織側貌が白人と類似しているため、非抜歯治療の割合が高いこと、ならびにMIAsの広範な応用により非抜歯治療が増加していること、などは注目すべき結果である。
マルチブラケット装置による治療における非抜歯治療の割合
加盟学会 非抜歯治療の割合 (%)
AOS 50
APO 40
BOS 60
COS 35 (Chengdu), 30-40 (Beijing)
HKSO <50
IAO 40
IOS 45-50
KAO 30
MacAO 20(アジア人), 80%(白人)
NZAO 50-70
ODOAN 60
PAO 60
SLOS 非常に低い
TAO 32.5
ThaAO 非常に低い
欧米の著名な矯正歯科医へのインタビュー
・先生の医院あるいはギリシャ全体において、マルチブラケット装置を用いた治療例のうち抜歯治療の割合はどのくらいかお教え下さい。
MOSCHOS A.Papadopoulos 抜歯・非抜歯治療の間の均衡は、この10年間、行ったり来たりしていますが、現在では、非抜歯治療の方へ移行しているようにみえます。また、その傾向はギリシャの矯正歯科医についても正しいことですが、残念ながら、これを実証する特記すべき数値が見当たりません。患者の協力なしでII級不正咬合を改善しうる治療方法が最近発刊された私の著書(TADsの項参照)に示されています矯正歯科医は矯正治療結果をうまくコントロールし、永久歯の抜去を回避できるようになります。
・先生の医院あるいはイギリス全体において、マルチブラケット装置を用いた治療例のうち非抜歯治療の割合はどのくらいかお教え下さい。
Allan Thom 最近、Eastman歯学部病院の修士課程研究プロジェクトにより、2005年から2010年と1995年から2000年の異なる期間における抜歯・非抜歯の割合が比較検討されました。その結果、両期間において抜歯・非抜歯の割合は50%対50%と、 まったく変化していないことが示されました。
・マルチブラケット装置を用いた治療例のうち非抜歯治療の割合はどのくらいかお教え下さい。
Roberto Justus 私の矯正歯科医院においては、70%の症例が非抜歯で治療されています。また、メキシコ全体のデータについては、残念ながらよく分かりません。
・マルチブラケット装置を用いた治療例のうち非抜歯治療の割合はどのくらいかお教え下さい。
Ravindra Nanda 抜歯治療を受ける患者の割合はかなり減少してきました。コネチカット大学では、約15~20%の患者において抜歯治療が行われています。
日本人と欧米人における抜歯の必要性の違い
1.歯と顎の大きさの不調和(ALD)が顕著になる傾向が強く、
オーバージェットが残りやすい。→抜歯の必要性が高くなる。
2.前歯に加わる口唇圧が日本人では弱いため、切歯が簡単に
唇側傾斜を呈しやすい。→抜歯の必要性が高くなる。
3.日本人は短頭型で、上下顎骨の奥行きが少ない。
→抜歯治療が多くなる。
4.鼻が低く、口唇の前突が顕著である。
→抜歯治療になりやすい。
5.咬合力が弱い傾向にある。
→下顎下縁平面の開大による長顔型が多いため、難しい治
療になりやすく、抜歯治療が多くなる傾向にある。
欧米人に比べわれわれ日本人を含むアジア人は、上記のような理由から矯正治療前に抜歯を必要とすることが多く、
インビザライン装置は、一般的に抜歯矯正に向いていないことからすべての患者さんがインビザラインで治すことができるとはいえません。
矯正歯科治療と保定の一般原則
1.移動した歯は、必ず元の位置に戻ろうとする。
2.不正咬合の原因を取り除くことが、後戻りの防止に有効である。
3.不正咬合は、安全策として、オーバーコレクションしておくのが賢明である。
4.治療による適正な咬合の獲得は、治療された歯の位置を保持する上で有用となる。
5.新たな位置に配列された歯の周囲組織や歯槽骨の再構築には時間を要する。
6.下顎切歯は、基底骨上に直立した位置に配列すべきである。
7.成長期に行われた改善は、後戻りを呈することが少ない。さらに、顎顔面骨格の前方成長が旺盛な症例では、垂直成長が旺盛な症例と比べて、後戻りが少ない。
8.歯列弓形態、とりわけ下顎歯列弓形態を矯正歯科治療により変化させることは不可能である。このことから、下顎犬歯間距離を増加させる拡大治療は下顎前歯部叢生の後戻りに繋がり易い。
我々矯正歯科医は、ある患者集団では後戻りが起こり易く、その他の患者では後戻りがない、という事実を正しく認識するとともに、その理由を理解しなければならない。
以下は、後戻りに関連する因子である。
1.顎顔面骨格の成長パターン
2.治療期間中の思春期性成長の有無
3.下顎骨あるいは下顎歯列の円滑な前方移動を妨げる上顎前歯の過度の舌側傾斜
4.歯列の過度の側方拡大、とりわけ下顎犬歯間幅径の増加
5.基底骨から外れた前歯の唇側傾斜あるいは臼歯の近心傾斜
6.矯正歯科治療後に残存している舌突出癖
日本矯正歯科学会からの注意喚起
・矯正歯科の現場では、セカンドオピニオンや再治療を希望する患者が後を絶たず、大きな問題になっています。また、関係省庁から、矯正歯科は美容医療ではないかとの指摘を受けています。さらに、ホームページや広告などに関する厚労省指針に抵触している事例が多いこと、転院時の治療費未返却、などについて指摘されています。
・昨年11月に、審美歯科学会において、消費者庁の担当官から、料金や返金についてのトラブルが多い矯正歯科治療費は特定商取引法の規制対象になりうる、との報告がな されました。そうなると、矯正歯科治療はクーリングオフの対象に認定されることになります。
・マウスピース型矯正装置について、その使用が急増してきたことに伴い、トラブルが散見されています。現在、関係機関へのアンケート調査を行っています。
・一般市民からの矯正歯科治療に関する質問が、学会HPを通じて寄せられています。昨年は75件、今年は3月時点で11件です。転医時の手続き、費用の返却、矯正歯科治療前の検査、治療内容、などについての質問が多く見られます。
マウスピース矯正歯科治療における注意点
1.初診相談時に、患者の主訴と治療法に対する希望を正確に聴取する。
2.すべての症例において、適正な検査・診断を行い、治療方針を提示する。
3.マウスピースを用いた治療の適応症か否かを的確に判断し、患者にその結果を十分説明する。
4.適応症でないにも拘らず患者が治療を希望する場合には、改善できる不正とそうでない不正を明確に示し、患者の理解を求めるとともに、これを文書で確認する。
5.マウスピースの使用に関する取り決めを患者に説明し、正確な理解を求めるとともに、これを文書で確認する。
6.成人症例で歯列の拡大を行う場合には、後戻りの可能性が高くなるため、永久保定を含むより確実な保定が求められる。
7.マウスピースによる治療が奏功しない場合には、マルチブラケット装置をはじめとした矯正装置による治療技術を習得しておく必要がある。
8.矯正歯科専門医にいつでも相談できる態勢を構築しておくのが肝要である。
上記のような保定に関する原理・原則を守り、最新の治療インビザラインの見えない・気づかれない・痛くないというメリットを最大限に生かして、いえさき歯科では、
これからもインビザライン治療にしっかり取り組んでいくつもりです。