いえさき先生のコラム
マウスピース型矯正は、どのような患者さんに適しているのでしょうか?
マウスピース矯正の適応として推奨されるものは、歯を抜く必要のないケース(非抜歯症例)です。
これは、抜歯症例に比べて、一般的に大きな移動を必要とせず、固定源(アンカー)の強弱の影響もあまりなく、極端な歯の傾きもないであろうということです。
しかし、注意すべき点は、「アライナーで治療したいから非抜歯治療にする」というような間違った治療をしないように注意が必要です。あきらかに本末転倒というところです。
正しい矯正診断をし、問題点をあぶり出し、治療目標を設定し、それらの解決案としての具体的な計画や使う治療装置を選択していくことになります。
とくに、何が何でも非抜歯治療がベストであり、抜歯矯正を勧める歯科医は歯を大切にしない、というような喧伝をしているサイトなどもありますが、
遠心移動はどこまで可能か、前歯の突出をどの程度改善できるのか等々、科学的な結論はいまだに得られておらず、非抜歯治療に関してもまだまだ大きな疑問が残されています。
また、患者さんが「矯正装置が見えるのはどうしても嫌だ」と言ったらどうするのか?患者さんのアライナーを求める希望を必ず優先してはいけないのか?という疑問もあろうかと思われる。
その疑問に対する答えは、出来るだけ正確に、移動の過程ではどうしてもブラケットとワイヤーのほうが効率的な移動ができる場合もあり、その際には、ブラケットを装着することを丁寧に説明することが必要になります。歯だけでなく顎や顔面全体から、どのような咬合に持ちこめばその人に適切かという、診断理由を十分理解していただくことが極めて重要です。
患者さんとしても、メリットばかりでなく、デメリットを十分説明してもらったことで信頼度が高まった、という声をよく耳にします。
また、抜歯症例のなかにも、移動量が少なく、すぐにもスペースが閉じて叢生が容易に改善できる症例もある。あるいは、推奨症例ではなくとも何とか工夫して使いたい、リカバリーは必ずできるという技術と経験のある歯科医ならば、責任を持もって、予知性をきちんと分析したうえで、応用範囲を拡げていけるものと考えています。
アライナー矯正に矯正歯科の専門的技量が必要であるかを問うアンケートにおいて、回答者の99%が「必要である」と回答されている。そして、具体的に必要とされる技量としては、「矯正診断の知識と治療技術全般」や「不測の事態における対処能力」、「アライナーによる歯の移動の特性の理解」などが挙げられた。
あえてこのようなことを書く理由は、非抜歯のアライナー治療を受けた結果、口元の突出感を改善してほしいと告げた主訴がまったく改善されていないという切実な訴えや、拡大に続く拡大をされてまったく噛めなくなったという驚くような症例を目にするよう機会があったことです。
正しい診断と説明、治療を行えば、マウスピース矯正は、とても良い治療法ですので、ぜひ体験してみてください。