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いえさき先生のコラム

顎関節症

顎関節の仕組みと働きについて

1.顎(アゴ)の成り立ち

口は実にさまざまな機能をもっています。なかでも食物を摂取し、咀嚼し、味わい、嚥下するという機能は、生命を維持し、身体の発育を達成するために欠くことのできない重要な機能です。

また、われわれは口で会話し、歌い、あくびをし、くしゃみや咳をします。口が正常に機能することなくして、私たちは健康な生活を望むことはできません。

これらの機能は、その構成要素である噛む筋肉(咀嚼筋)、アゴの関節(顎関節)、咬み合わせ(歯・歯列)が健全であって、はじめて正常に営まれます。口が正常に機能するためには、この三者が協調して働く必要があります。

私たちが口を機能させているとき、咀嚼筋、顎関節、歯の3つから刻々と感覚情報が脳に送られています(機能的咬合系[functional occlusion system])、脳は瞬時にそれらの情報を咬合して咀嚼筋に指令を出し、アゴが自然に動いて口が機能するのです。

2.アゴの関節(顎関節)の解剖

下アゴの運動は、アゴの関節(顎関節)を基点として行われるので、顎関節の解剖を理解しておくことは咬み合わせに対する理解を深めるためにとても重要です。顎関節は、耳の穴(外耳道)のすぐ前にあります。この関節は、下アゴの骨(下顎骨)のいちばん後ろの上方につき出た、アゴの付け根の部分である下顎頭が、頭の骨(頭蓋骨)の下面のくぼんだ所(下顎窩)にはまり込んでできている関節です。

1)下顎頭

下顎頭は1つの下顎骨の左右にあり、それぞれ左右の下顎窩に入っています。顔の横から正常な顎関節を見たところの解剖図を図2aに示します。顎関節に異常がなければ、図2bからも明らかなように、下顎頭、関節円板および下顎窩とも、その表面は非常に滑らかであることがおわかりいただけると思います。

下顎頭は、前後の幅が約1cm、左右の幅が約2cmで、ちょうど握りこぶしのような形をしており、その表面は繊維性の軟骨で覆われています。また、下顎窩の前方には関節隆起という出っ張りがあります。下顎窩や関節隆起の表面も下顎頭と同様に繊維性の軟骨で覆われています。

2)関節円板

顎関節の下顎頭と下顎窩との間には、関節円板があります。関節円板は、その上面も下面も凹んでいるので前と後ろが厚く、中央は薄くなっており、全体としては競馬の騎手がかぶるジョッキーキャップに似ているといわれています。ちょうど下顎頭が関節円板という帽子をかぶったようになっています。

関節円板は軟骨ではなく、コラーゲン繊維がぎっしりとつまった組織で、細胞の数が少なく、神経や血管はみられません。関節円板は下顎頭の外側と内側に強くくっついていますが、前後はくっついてはおらず、下顎頭と関節円板の前方には外側翼突筋という筋肉が付着しており、この筋肉が収縮すると下顎窩にはまり込んでいた下顎頭と関節円板が一緒に関節隆起を滑り降りてきて口が開きます。

口を閉じると、下顎頭と関節円板は再び一緒に下顎窩内の元の位置に戻ります。関節運動を滑らかにするとともに、咀嚼をしている時などに顎関節部にかかる負担を和らげるクッションの役目を果たしています。関節円板の後方は、血管や神経の豊富な疎性結合組織である円板後部組織に移行しており、滑らかな下顎頭運動を補助しています。

3)関節包

顎関節は、関節包という繊維性の膜により包まれており、下顎頭と下顎窩・関節隆起の間にある関節円板と、それに続く円板後部組織により上下2つの部屋に分けられます。上の部屋を上関節腔、下の部屋を下関節腔といいます。

関節包の内面と前後の折り返し部分は滑膜により覆われており、滑膜は滑液という栄養分に富んだ関節液を分泌し、関節腔にたまった老廃物を吸収します。上下の関節腔は、この滑液で満たされています。

滑液は、下顎頭の動きをなめらかにする潤滑油の役割を果たすとともに、下顎頭の運動によって関節内部に行きわたり、血管や神経のない関節円板や下顎頭、下顎窩、関節隆起の表面を覆う繊維性軟骨に栄養を運びます。

関節包のさらに外側には靭帯があります。靭帯は骨と骨(顎関節の場合は側頭骨と下顎骨)とをつなぐ繊維性組織で、関節が離れてしまうことを防ぐとともに、関節の動き(顎関節では下顎頭と関節円板の働き)を規制しています。顎関節にもいくつかの靭帯がありますが、関節包の外側はもっとも強固な外側靭帯により覆われています。

3.口を開けたり閉じたりするときの顎関節の動き

私たちは時々、大きく口を開けてあくびをしますが、あくびをしたときにどのくらい口が開いているかご存知でしょうか?思いきり口を開けてもらって、定規を使って上下の前歯の間の距離を測ると、女性であっても50mm近く、男性だとそれ以上開くことがわかります。口の大きい男性だと60mmぐらい開くことも珍しいことではありません。ではその時に、顎関節はどのように動いているのでしょうか?私たちが口を閉じているときは、先の解剖写真で説明したように、下顎頭は下顎窩の中に納まっています。顎関節は実は蝶づかいのように回転運動だけをする関節ではありません。下顎頭が下顎窩の中に納まったままで、蝶番のように回転だけをしたときには、30mm程度しか口を開けることができません。実際には、下顎頭は回転をしながら関節隆起を前下方へ滑り降りてくるのです。

このように、下顎頭は回転と移動をともなった動きをしており、これは顎関節の大きな特徴の一つなのです。耳の前の顎関節の部分に指を当てて口を開けたり閉じたりすると、下顎頭が回転しながら前後に移動するのを感じることができますので、ぜひやってみてください。

口を最大まで開けると下顎頭は関節隆起を越え、図6cのような位置にまで達します。この一見するとアゴがはずれたように見える位置がもっとも大きく口を開けたときの下顎頭の正常な位置なのです。口を開ける動作により下顎頭と関節円板が前の方に出てくると下顎窩は次第に陰圧となり、円板後部結合組織に静脈血が流入して膨大し、下顎窩を埋めます。逆に口を閉じ始めると、下顎頭と関節円板はともに口を開けるときと逆方向に回転しながら移動して下顎窩に戻ります。

4.口は開閉するだけでなく、前後左右にも動く

左右の下顎頭はいつも同じ動きをしているわけではなく、下顎頭が前方へ移動する量を左右で独立して変えることができます。これにより、アゴは左右に動いたり、前に動いたりします。

すなわち、たとえば左の下顎頭を下顎窩に留め置いて右の下顎頭を前に移動させるとアゴは左に動き、逆に右の下顎頭を下顎窩に留め置いて左の下顎頭を前に移動させるとアゴは右に動きます。両方の下顎頭の回転を押さえながら前へ移動させるとアゴは前に出ています。後ろにはほとんど動きません。

このように、口は縦に開くだけでなく、左右の下顎頭の動きをコントロールすることで、アゴを左右方向や前方方向へ細かく動かすことが可能となり、咀嚼(ものを食べること)したり、発音したり、何かをくわえたり、ときには口を使って音を出す楽器を演奏したりと口のさまざまな機能を果たすことができるようになるというわけです。

食べ物を右の奥歯で咀嚼中には、口を開けて食べ物を入れた後、アゴを少し右へ移動させながら口を閉じていくことで上下の奥歯の問に食物をはさみこんで押しつぶし、これを繰り返すことで食べ物を細かく粉砕し、飲み込みやすくします。このとき、右の下顎頭の動きは小さく、左の下顎頭は前方かつ内方への移動と後退を繰り返します。