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いえさき先生のコラム

「かめない」子どもが「かむ」ために

かめない子どもが増えてきていると言われているが、臼歯の臼磨運動だけではなく、前歯の咬断ができていないと感じることがある。

横浜市立の小学校には、難聴言語通級指導室という「ことばの教室」がある。そこには難聴や構音障害、吃音などことばに問題を抱えている児童が通級している。私は歯科衛生士の立場から、そのなかで口腔機能が未熟な児童の機能評価をしている。機能評価をする際、舌や口唇の動きを見ると同時に、リンゴを食べてもらい捕食・咀嚼・嚥下の様子を観察するのだが、そのほとんどの児童は「早食い」「丸飲み」「前噛み」などの食べ方をしている。一口量のかじり取りや臼歯ですりつぶし、舌を使った食塊の送り込みができていないために、このような食べ方になるのだが、保護者の多くは指摘されて初めて気づくようである。クチャクチャ音を立てて食べたり、見た目が汚い食べ方は気にしても、正しく捕食・咀嚼・嚥下をするところまでは気にしていないことが多いのだ。

「よく噛んで食べることは健康によい」ということは一般的にも知られているが、それに逆行するように、子どもたちにはやわらかい食べ物が好まれている。TVでは、グルメ番組のリポーターがおいしさを表現するときに、「舌の上でとろけます」、「噛まなくても飲み込めます」といったコメントをする。肉でもスイーツでも「やわらかい」はおいしいというほめ言葉なのだ。

私自身、噛み応えのあるもの好きだが、時間のないときはよくかまなくても食べられる麺類などで済ませてしまうことも少なくない。考えてみれば、現代の子どもを取りまく食環境は、時代とともに変化している。個食になりがちで、電子レンジで温めればよい冷凍食品を食べたり、習い事の合間にファーストフードで食事を簡単に済ませるなど、やわらかい食べ物を短時間で食べることが多くなっているようだ。

毎食とまではいわないが、歯ごたえのある旬の食材を使った惣菜をよくかんで味わい、家族いっしょに食卓を囲む機会を作ってほしいと思う。

いまの時代、かめない子どもをかめるようにするためには、スルメなどの固い食材を与えて咀嚼回数を多くして顎を鍛えるよりも、リンゴを使って一口量のかじり取りと食材の塊を臼歯ですりつぶす感覚を摑んでもらうような、正しい捕食・咀嚼・嚥下を覚えることの方が、必要になってきているのではないかと感じている。