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いえさき先生のコラム

かみ合わせ全身疾患口腔機能

「嚙み合わせ」が悪いと転倒しやすくさらに寝たきりのリスクも高まる

奥歯の有無は、転倒のリスクとの関連性が高いことがわかっています。高齢者の転倒は非常に危険で、転び方が悪いと脚の付け根(大腿骨頸部)の骨折を引き起こし、そのまま寝たきり生活になってしまうことがよくあります。

そこまでひどい転倒でなくても、一度転ぶとまた転ぶのではないかと不安になり、自宅でじっとするようにもなります。結果的に自宅に閉じこもることで、運動不足になり、心身が衰弱して寝たきりにつながります。転倒や骨折は、要介護になる原因の第4位。要介護になった人の10人に1人は転倒・骨折がきっかけになっています。

転倒しやすい人は、体のバランス機能や足腰の筋力が低下しているケースが多く、そこには奥歯の有無が密接に関わっています。ある調査では、過去1年間に転倒経験のない高齢者1763人を追跡調査しましたところ、歯が20本以上の人(奥歯のある人)に比べて、19本以下で義歯未使用の人(奥歯のない人)は転倒リスクが2.5倍高いという結果が出ました。

なぜ奥歯が無いと転倒しやすくなるのでしょうか?

アメリカのメジャーリーグやアメリカンフットボールの選手は、シーズンオフには必ず歯科治療を受けるといいます。それは、歯(とくに奥歯)の噛み合わせがしっかりしていないと、持てる力を十分に発揮できないからです。世界のホームラン王である王貞治氏は、現役時代、バッティングのときに奥歯を噛みしめすぎて、奥歯がすり減ってボロボロだったというのは有名な話です。そのくらい力を発揮するためには、奥歯での噛みしめが重要なのです。

これはなにもプロのスポーツ選手に限りません。私たちも日常で重いものを持ち上げたり、遠くに投げたりするときは、奥歯を噛みしめます。奥歯を噛みしめると、頬にある咀嚼筋から神経を通じて足の筋肉に信号が伝わって力が発揮されるメカニズムが、私たちの体には備わっています。

奥歯の噛み合わせが悪いと、下顎がふらついて頭部が不安定になり、同時に頭部を支える体も不安定になります。すると、体のバランスを崩して転倒しやすくなります。歯根や咀嚼筋からの信号は、頭部の位置を安定させることに深く関わっているのです。