いえさき先生のコラム
”たかがむし歯”ではありません!
歯周病に次いで歯を失う原因となっている疾患は、むし歯です。
むし歯は、ミュータンス菌などのむし歯の原因菌が出す酸によって、歯のカルシウムが溶かされ、ついには穴があいてしまう病気です。
むし歯は、歯周病と同様、重症になるまでは自覚症状が少ないため、初期には気付きにくいのが特徴です。
むし歯菌は、私たちが食事を摂ったあと、食べかすの中の糖分を分解し、歯垢(プラーク)を作ります。
歯垢は、いわゆる水垢の一種で餅のようにネバネバしており、歯にべったりと付着します。
そして、その歯垢の中でむし歯菌は糖を分解して酸を出し、歯を溶かして、むし歯菌を作ります。ズキズキする痛みは、むし歯菌が歯の神経(歯髄)にまで達し、重度のむし歯になった証拠です。
歯の中の神経の通っているところには血管も通っており、むし歯菌は簡単に血管の中に入ります。
血液を通じて全身を回ったむし歯菌は、そのネバネバした分泌物によって血管の内壁にくっついてたまりやすくなります。とくに心臓の内側の壁である心内膜、心内膜の弁やその人工弁などに、むし歯菌のかたまりができやすいことがわかっています。
これは感染性心内膜炎といわれ、手術が必要となる場合や、死に至るケースもある、たいへん恐ろしい病気です。
感染性心内膜炎以外にも、体の重要な器官(臓器)の機能不全が起こる「敗血症」などへと進展することもあります。
「たかが、むし歯」と侮れない理由がここにあります。
むし歯予防という子供向けの対策のように思うかもしれませんが、成人になってから、そして高齢期を迎えてからも、歯周病とともにむし歯を予防することは、健康寿命を延ばすためにも重要なのです。
歯を失わせる歯周病やむし歯が、認知症や寝たきりだけでなく、全身の病気につながることをお伝えしましたが、心疾患だけでなく、脳血管障害、糖尿病、低体重児出産、リウマチなどなど多くの全身疾患と深いかかわりのあることが解っています。
歯周病やむし歯を防ぐために多くの方が良かれと思ってやっている歯磨きの常識を、最新の予防歯科学の観点からお伝えしたいと考えています。